神戸家庭裁判所 昭和40年(家)651号 審判 1965年9月09日
申立人 大井京子(仮名)
相手方 大井保(仮名)
主文
相手方は申立人に対し、昭和四〇年九月より別居期間中毎月一万八、〇〇〇円宛をその月の末日限り申立人住所に持参又は送金して支払え。
理由
本件申立の要旨は、申立人と相手方とは婚姻し、その間に子供二名を有するが、相手方は昭和四〇年三月に家を出て行き、申立人は子供二名を抱え相手方と別居状態で現在に至つている。相手方は別居して最初三ヵ月間は子供の養育費を支払つてくれたが、その後は全然支払わない。申立人は現在パートタイムの事務員として働いているが、病気のため充分に働けないので、申立人及び子供二名の生活費として毎月相当額の支払いを求める、というのである。
本件は当庁昭和三九年(家イ)第七二七号調停事件として係属し、昭和四〇年四月二二日不成立となり、審判手続に移行したものである。
当事者提出の各資料及び職権により取調べた結果認められる事実並びにこれに基く当裁判所の判断は次のとおりである。
一、申立人と相手方とは昭和二六年二月一四日婚姻し、その間に長男和男(昭和二六年六月八日生)二男明男(昭和三二年一一月七日生)を儲けたが、些細なことから言い争うようになつて夫婦仲は不仲となり、そのため申立人はヒステリー気味となり昭和三八年頃より相手方の食事、洗濯等身廻りの世話をしなくなり、又夫婦関係もしなくなつた。それで相手方は双方の親戚を呼び寄せ話し合つた結果、申立人と相手方とは一応夫婦本来の生活をすることになつた。しかし申立人はその後間もなく前同様の態度をとるようになつたので再び双方の親戚が集つて協議したがまとまらなかつた。そして相手方はこのような生活に堪えられなくなり、昭和三九年三月二四日家出し叔父の家に寄寓することになつた。その後同年七月頃さらに双方の親戚が集り協議したが結論が出ず結局物別れとなつたので、相手方は遂に申立人を相手に当庁に夫婦関係調整の調停の申立(昭和三九年(家イ)第七〇六号)をし、同事件は昭和四〇年一月二八日不成立となつたが、相手方は再度申立人を相手にして当庁に離婚を求める夫婦関係調整の調停の申立(昭和四〇年(家イ)第一四六号)をし、同事件は目下係属中である。
二、相手方は、申立人と別居後は申立人に対し、申立人及び双方間の上記子供二名の生活費として、昭和三九年三月二万円、同年四月一万五、〇〇〇円、同年六月二万円、同年七月二万円、同年一一月六日三万円、同月一九日三万円、昭和四〇年四月一万五、〇〇〇円、同年五月一万五、〇〇〇円を支払つたが、それ以後は支払つていない。
三、申立人は、相手方が家出した後は子供二名とともに現住所で生活しているのであるが、昭和三九年六月より○○月販株式会社にパートタイムの事務員として働き、一ヵ月平均一万四、〇〇〇円の収入を得ている。しかしその生活費に一ヵ月三万八、〇〇〇円を要しているので、その不足分は申立人が保管している相手方の銀行預金(長男和男次男明男名義)より引出し充当している。
四、相手方は家出後一時叔父の家に世話になつていたが、現在では現住所で母と二人で暮しているが、相手方は株式会社○○製鋼所に勤務し、その収入は一ヵ月手取り額平均四万八、〇〇〇円であり、他に資産はない。
五、上記認定事実によれば、申立人は一ヵ月平均一万四、〇〇〇円の収入を得ており、そのうえ申立人と相手方との別居の責任の大半は申立人にあることからみて申立人自身の生活費については相手方に分担する義務はないというべきである。しかし二名の子の生活費については、夫婦間の事情如何にかかわらず、親である相手方にその支払を分担する義務がある。そしてその程度方法を考えてみるに、相手方の収入は上記以外に賞与があり、しかも家族は母一人で会社の寮に居住しているのであるから、その生活は充分に余裕があるものと認められること、双方の生活状況、収入、二名の子のうち一人は、中学生であり他の一人は小学生であることその他本件に現われた一切の事情からみて子供二名の生活費として毎月一万八、〇〇〇円を相手方に分担させるのが相当である。そうすると、相手方は申立人に対し、二名の子の生活費として毎月一万八、〇〇〇円宛てを、別居後の昭和三九年四月より別居期間中支払う義務があるところ、すでに支払期を経過している分の金三〇万六、〇〇〇円(昭和三九年四月から同四〇年八月まで毎月一万八、〇〇〇円の合計)より相手方が既に支払つた金一六万五、〇〇〇円を差引いた金一四万一、〇〇〇円は直ちに支払うべきであるが、この分については、申立人が保管中の上記銀行預金(別居当時の預金高は四〇万円以上)をもつてその支払に充てることとし、結局相手方は申立人に対し、昭和四〇年九月分より別居期間中双方が同居又は離婚するに至るまで毎月一万八、〇〇〇円を毎月末限り申立人住所に持参又は送金して支払わせるのが相当である。
なお相手方は、相手方が分担すべき生活費に、申立人が現に居住している賃借家屋(賃借人相手方)の敷金返還請求権七万円又は八万円とその家屋にある家財道具をもつてその支払に充てると主張するけれども、申立人が敷金返還請求権又は家財道具より生活費を得ようとすれば、その居住家屋を明渡し、或は家財道具を処分しなければならないのであるが、申立人にとつてその居住家屋及び家財道具はその生活の基盤であつて、これらを処分することはその生活を根本的に破壊することになるから、相手方が申立人に対する生活費の支払に敷金返還請求権又は家財道具を充てることは相当でない。従つてこの主張は採用し難い。
よつて主文のとおり審判する。
(家事審判官 小河基夫)